戦後最大の旅館火災事故
昭和55年11月、栃木県藤原町川治温泉にある観光旅館の「川治プリンスホテル雅苑」において発生した大規模な火災事故です。
当時の宿泊客等45人が死亡、22人が負傷した戦後としては最大の旅館火災になります。
当時このホテルには宿泊客113人等が滞在していて、その中には老人会も含まれていました。
分かっている従業員の数は18人で、この時浴場の拡張に伴う旧露天風呂の取り壊しに従事する作業員が12人居た事も後に判明しています。
出火元は工事中の火花
その後の調査で出火原因とみられているのが浴場の工事です。
午後3時頃の事ですが、鉄柵の切断作業に従事していた作業員が飛び散る高温の火花が外壁のモルタル破損部に当たっているのを確認しています。
破損部は隙間になっていて、内部には木製の柱等があった事からここに着火し、その後壁の内部から燃え広がる様に延焼していきました。
最初の問題点として、現場作業員がこの事態を軽視して居た事が挙げられています。
本来であれば鉄板などで隙間を埋めた上で作業するのが通例の様で、そこを怠ったヒューマンエラーがあります。
火は脱衣所の屋根裏や内部で燃え続き、目視での確認が遅れる事にも繫がりました。
火災発見までに時間が経過してしまった
最初に火災報知機が煙を感知し館内に鳴り響きましたが、元々このホテルでは誤作動により火災報知機がなる事がしばしばあり、特に従業員の間では「またか」と言った感じで終わってしまっています。
一応火災発生場所も浴場付近と火災報知機は正確な作動をしたわけですが、誤作動だと判断してしまった従業員により館内放送で火災報知機の試験中とアナウンスしてしまっています。
これにより、一般宿泊客の避難が遅れた形になってしまいました。
その後脱衣所に確認に言った作業員複数名が天井から出ている火を発見し、ここでやっと火災発見に至ります。
消火設備の不備
すぐさま作業員たちを始めとして消火活動が開始されましたが、消火設備の点検不備があり消火剤の出ない消火器があったり、屋内消火栓はホースが無かったりと思うように消火活動は進みません。
大広間に設置してあった屋内消火栓からホースを引っ張ってきましたが、今度は電気系統の不備により水が放出されないと言う事態も発生しています。
この段階で初期消火活動は失敗と言えると思いますが、最終的に浴場の水を汲んで火元にかけると言う活動も行われましたが、時すでに遅く壁や天井から吹き出した日により断念しています。
建物の構造の不備
当時川治プリンスホテルは増改築を重ねた事もあり、防火区画が存在せず後に調査した結果火災時には延焼のスピードが速くなる構造と言う事も判明しました。
これについては当時の地元消防本部や県の建築課から指摘がありましたが対応していなかった様です。
この事から延焼は早く、最終的に全焼する事態となってしまいます。
他の火災事例との共通点
今までに書いてきた過去の火災事例と共通する項目が沢山あります。
消火設備の不備や避難誘導の不備などがその代表ですが、多くは人的な要因により被害が拡大しています。
119に通報があったのは実に火災発生から20分も後の事だったようで、消防車が駆け付けた時には既に旅館はほぼ全焼していました。
やはり避難訓練や定期的な消火設備の点検などを行っておくことが重要と言う事になります。